
私たち現代人の腸内には1000種類・100兆個以上の腸内細菌が絶えず菌交代をしながら生息しています。
多種多様な腸内細菌の生態系は、顕微鏡で覗くとお花畑に見えることから「腸内フローラ」と呼ばれたり、腸内細菌全体という意味で「マイクロバイオーム」と呼ばれています。
ヒポクラテスは「すべての病気は腸から始まる」という言葉を遺しており、近年は腸脳相関(brain-gut interaction)や病巣感染症(focal infection)という全身の臓器や諸器官のネットワークや感染概念が提唱されています。
消化・吸収・排泄機能を司る腸は「第2の脳」ともいわれている様に、腸が脳と独立して独自で考えることもあり、代謝や合成・免疫応答などに関与しています。
最近の長寿解析研究によると、長寿遺伝子よりも環境要因、とりわけ腸内フローラの関与が健康長寿関与が重要で、腸-マイクロバイオータ-脳の三者間における神経内分泌などの情報交換は心身の健全性に不可欠といわれています。
腸内フローラは神経や免疫に必須の成長因子を含んでおり、その不均衡は便秘や下痢など大腸疾患に及ぶだけでなく、口腔から肛門まで消化管全体の細菌叢バランスに関与し、アレルギー疾患や膠原病、自閉症・鬱や認知症、糖尿病・高血圧やがんなど、様々な病態の制御に関わっています。
腸内細菌叢の構成は、とりわけ小児期での心理・精神状態の形成に深く関与しており、食事などの生活習慣だけでなく、薬剤などの化学物質、気象変動や電磁波まど体内外環境の変化にも大きく影響されます。
生活様式の多様化に伴ない一度崩れた腸内細菌叢をとり戻すことは年々困難になっており、除去食や水溶性食物繊維、プロバイオティクス、アンチバイオティクス(抗生剤)・土壌菌移植など、従来型の治療では適切な腸内細菌の定着や発酵、短鎖脂肪酸の生成が充分でないケースが増えてきました。
欧米では2013年に健康な人(スーパードナー)腸内フローラを移植する方法がオランダの治験で成果をあげ、米国のFDAでは通常医療として承認された後に、我が国でも数年前から大学病院などで、近親者・配偶者・知人をドナー対象とした腸内フローラ移植が行われています。
「一般財団法人 腸内フローラ移植臨床研究会」では2009年の第1例目を皮切りに、これまで千例以上の臨床例に「腸内フローラ(糞便微生物)移植」を実施して来ました。
同研究会ではドナーバンクから厳選した移植菌液を独自の溶解方法によって調合することで、従来型のFMT(糞便移植)に比べて菌の定着率が格段に高まり、フローラバランスの早期改善と定着化がみられております。
腸内移植対象者は事前に腸内フローラバランスを便検査によって確認したのち、ドナーバンクに在籍するドナーから提供された移植液を厳選し、1週間おきに3回から6回に分けて注腸方式によって肛門から大腸全体に菌液を注入します。移植完了後には再び腸内フローラバランスの定着と推移や、心身の変化や諸症状の改善を確認します。
同研究会での腸内フローラ移植は、慢性便秘症、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、消化管ベーチェット、腸ヘルニアをはじめ、アトピー性皮膚炎、更年期障害、膠原病、自閉症、(躁)うつ病、パニック障害、線維筋痛症、自律神経失調症、高血圧、高脂血症、糖尿病、甲状腺疾患、各種がんや悪性リンパ腫、多発性硬化症、パーキンソン病などを対象におこなわれており、現在も移植の適応疾患は増えつつあります。
日本国民誰もが「何を食べれば自分はどうなれるのか」、健康長寿への生活習慣を意識できる未来社会の創造のために、弘前大学COIプログラムや京都府立医科大学の「京丹後長寿コホート研究」を継承しながら、日本最古の医学書「医心方」や「出雲國風土記」など郷土史から現代までの食養・薬草文化を紐解き、出雲地方をはじめ全国各地の土壌菌の生育環境や生態系の変遷や住民の食生活と、口腔内~腸内細菌叢の解析を今後も進めていきたいと思います。